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山中無軌条屋敷
Outrageous mansion in the mountains

  
 第6話 予想外の予兆  

 



「これから作戦会議を始めます。」
 時は、私があいつの罠に嵌り、長老とストラにこのゲームについて教えたあとの作戦会議に遡る。この時は皆、たかが人間の仕掛けたゲームに作戦なんていらないと思っていただろう。私もその一人だった。
 しかし、長老が備えあれば憂いなしと言い、この屋敷きっての作戦手であるロルがぜひやりたいというので、こうしてやろうとしているわけなんだけど。
「あの、テルジェちゃん。この屋敷の見取り図ってありますか?」
「え?うん、古くて見づらいけどあるよ。」
 ロルに頼まれ、見取り図を取り出す。

 これがこの屋敷の全貌。元は学校だったのを屋敷に改装したらしいけれど、元の姿が全く想像つかない。ちなみに、改装は長老たちが幽霊として住みつく前に行われたらしいけど、そこらへんについてはいまいちよくわからない。
 私がここのリーダーとなったのはつい最近のことで、それよりずっと前の皆の生前にいろいろあったらしいけど、その詳細を長老がなかなか教えてくれない。まあ、よそ者の私がここの長であること自体、奇跡的なんだけどね。
 さて、この屋敷の部屋について。1階には食堂にキッチン、倉庫や大部屋に客間が大広間を囲む形で並んでいる。1階の大部屋はノルゴ、キルン、サタミの部屋だ。2階の大部屋は私が一人で使ってる。一応長だもんね。
 教室・・・という部屋にはここの長老であり、私が来る前の長であったベンクロックが住んでいる。やつがトラップに引っかかり、下に落ちた部屋でもある。
 その他の2階の部屋には順にアンタル、レンマ、部屋3と4は空き、5からストラ、ロル・・・といった感じになっている。

「それで、渡された旗の設置位置はどこだなー?」
「一応、会議室、教室、それからキッチンにおこうと思っています。」
「ん?前の2つはわかるが、何故キッチンなんだ?」
 レンマが自分の疑問を口に出す。
「あ、それは私の提案。そこなら前みたいにあの三つ子が活躍できるでしょ?」
 前みたいに・・・というのは、奴が教室から食堂に落ち、その後奴が散々な目にあった時のこと。あの時のポルターガイストはあの三つ子だったのだ。
「おいおいー、活躍できるってこれゲームじゃねんだぞ?」
「ゲームじゃないって・・・ストラ、これれっきとしたゲームだからね。」
 3つの旗を屋敷内に設置し、侵入者にそれを盗られないように防衛する。これは決闘や殺し合いではなく、テレビとかでたまにやっているゲームそのもの。
 せっかくのゲームなんだし、全員が楽しめるような作戦であるべき―――というのが、私の考えだった。
 しかしストラは違うようで・・・
「いくらゲームといっても、屋敷をかけてるじゃんかー。経験の浅いミツゴに旗一本任せていいのかあ?」
「わしもストラの意見に賛同じゃ。三つ子は実戦経験はあまりなく、いざというときの判断力にも乏しかろう。あの子らだけでフラッグを守るのは危険過ぎる。」
「うーん・・・じゃあアンタルは?」
「興味ないなー」
 アンタルの必殺面倒屋が炸裂。
「・・・まあ、あなたがまじめに答えるはずないよね。」
「あ・・・あのう・・・」
 議論中、黙っていた作戦手のロルが、唐突に声を上げた。
「ん?なんじゃ?なにか案でも思いついたかの?」
「はい、その・・・三つ子さんの配置の関係なんですけど、罠を併用したらどうかと。」
 罠?トラップを併用する・・・?
「まず、挑戦者の彼をキッチンの勝手口に誘導するんです。窓をすべて閉め、正面玄関を塞いだ上で。」
「・・・なるほど、真っ先に小回りの効く大広間へ侵入するのを防ぎ、狭いキッチンから入らせて身動きを取れなくする・・・ということか?」
「それもありますけど、勝手口は殆ど使ってませんね?その勝手口に爆弾か何かを仕掛けるんです。」
 突然の凶悪腹黒作戦に、一同びっくり。
「ままままままままま待て待て!爆発は危険だあああー!!!?」
 ストラ、驚きのあまり舌足らず。
「・・・ぶっ飛んだことは気分が良くなるなー。」
 アンタル、なんか乗り気。
「・・・使っていないとはいえ、屋敷を傷つける罠はできるだけ避けたいのじゃが・・・」
 長老は反対らしい。まあ、爆弾なんて幽霊でも手に入れ難いもんね。
「と・・・とにかく罠です!勝手口に罠を仕掛けて、そのスキに三つ子さんにアタックしてもらうんです!」

 こうして作戦会議は順調・・・ではまったくないけど、とりあえずすべての配置と作戦が決まった。

 ―――重要な欠陥を残したまま。


 
「・・・で、調べてないのはこのドアだけか。」
 正面玄関に鍵がかけられ、窓も全滅。残るは今目の前にある勝手口のみだが、これにも鍵がかかっていたら、俺は屋敷に入ることができないまま、このゲームに負けてしまう。
「まったく、奴らはなにを考えているのか・・・ゲームくらい、まどろっこしいこと抜きで参加してほしいものだ。」
 ため息ポロリ。こちらから仕掛けた身勝手なゲームとはいえ、この仕打ちは納得のいくものではなかった。
 いや、そもそもこれは俺の買った屋敷であり、勝手なのはそれに住み着いている奴ら幽霊だ。こんなゲームで所有権を決めること自体、おかしいのだ。俺がお金を出し、手に入れたものなのだから。

「・・・仕方ない、とにかく屋敷に入らないことには始まらない。ドア粉砕してでも侵入するぞ。」
 独り言を放ちながら、俺はドアノブに手を触れた。ゆっくりと握った手を回す。ノブは最大にまで回り、鍵がかかっていないことを証明した。入れる。開始30分にして、ようやく入ることが出来る。

 俺は何故か感極まって、ドアを開け放したあと、勢い良く室内へと飛び込んだ―――


 
 ―――先には、ぶら下げられたフライパンと、やや深い穴が、無情にも侵入者さんを待っていました。
 どうもいるか不明の読者の皆さま、語り手としては初出演のロルと申しますものです。今私は、キッチンにて三つ子さんの保護者役をやっているところです。

 三つ子さんのキッチン配置の作戦については、罠を設置の上私がいざというときのために付きそうという形で決着がつきました。
 私は作戦とかを考えるのは得意なんですが、実戦向きではないので、そういった意味では私のこの配置は妥当ということでしょう。
「では皆さん、言われたとおりに仕事を始めてください。」
「わかったー」
「侵入者めっためたにするー」
「袋叩きだー」
 そう、彼ら3人の仕事は、勝手口のすぐ近くの落とし穴(ただの床下収納です)に落ちた侵入者さんを、ポルターガイスト打法によって制裁を加える事―――俗にいう、フルボッコというものです。

「これでもくらえー(土鍋投下)」
「カエルの子供ー(おたま暴風雨)」
「フリスビー攻撃ー(皿手裏剣)」

 無邪気な3人の子どもたちは、容赦なく、身動きの取れない侵入者さんに攻撃を加えていく。その無邪気な心には、ストッパーの概念はないようです。
 ・・・私、たまに腹黒とか言われてしまいますが、今の三つ子さんたちは、私なんか比べ物にならないくらいに・・・黒い。
 私が現場監督を務めなくとも、このゲーム楽勝だったんじゃないかって思えて来ました。
 ただし、その考えが浅はかだったことは、すぐにわかりました。
 


   この小説はフィクションです。
    前回予告ではこの回で導入編終了でしたが、予定変わって次次回で終わりとさせて頂きます。ヨソウヨリブンショウガオオクナッテシマッテ
第7話に続く

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