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山中無軌条屋敷
Outrageous mansion in the mountains

  
 第7話 それぞれの真実 

 


 

「ってこれ、人形じゃないですか!」
 なんということでしょう。あんなに人間に見えていたその物体は、命を持たない、精巧なマネキンだったのです。
「・・・じゃあ、本物は一体何処に・・・!?」
「ここだ。」
 声がした方向に、条件反射で振り向いた。その方向は・・・フラッグを置いていた場所です!

「く・・・いつの間に旗の場所へ到達したんですか・・・!」
「今さっきだ。ここへ来たと同時に、お前らがそれを人形だと気がついた。」
「まさか・・・別の場所から屋敷に入ったとか・・・?」
 突然の急展開に、実践不慣れの私は震えていた。わけの分からぬ恐怖を感じていた。
「その通りだ。俺が1週間潜伏している時に井戸を発見してな。それを少し上方向に掘って、秘密の抜け穴の完成ってわけだ。ちなみにその穴は食堂に出た。」
「・・・そのフラッグは、当然回収するんですよね?」
「もちろん、これを回収しないとせっかく買った屋敷がパーだからな。」
「それで、私達はどうするつもりですか?」
 私の聞きたい、最優先事項はこれだった。三つ子さんたちが落ちた侵入者さんをフルボッコにできたのは(あれ人形だけど)、彼が身動きの取れない状況だったからで、三つ子さんプラス私で彼に攻撃を仕掛けても、勝てるかどうかは怪しい・・・あれ?なんか忘れてる気がします。なんでしょうか・・・
「んん、そっちから危害を加えなければ、俺はそのまま次のフラッグを回収に行くが。」
「そうですか・・・」
 どうしよう。ここで攻撃しなければ、私は情けない使えない子になってしまう。しかし、攻撃すればこっちが返り討ちに・・・んん?なにかおかしいな。大事な何かが抜け落ちている気が・・・
「ねーねーロル姉ちゃん」
「ん?なあに?」
ふいに、三つ子のうちの一人、ノルゴくんが話しかけて来ました。
「姉ちゃんと侵入者の会話聞いていてー」
「私たち気になってたんですがー」
 続けてキルンくん、サタミちゃんと続き、次の重要な一言は、3人全員がハモった。その言葉とは・・・
「「「なんで普通に会話できてるのー?」」」
「っ!!」

 そうでした。私は幽霊で、あの人は生きた人間。私が彼の言葉を聞くことはできても、彼が私たち幽霊の声を聞くことも、姿を見ることもできないはずです。さらに、人間は幽霊に触ることはできないはずで、私が彼に攻撃される心配もないはずなのです。
「やっと気がついたか。几帳面に見えて、案外気の抜けてる所あるんだな。」
「い・・・いえ・・・今のはその・・・ナチュラルに私に話しかけてくるから、対等の存在だと勘違いしていただけで・・・それより、なんであなたは私たちが見えるのですか?」
 常識が、私の中で崩壊しつつあった。人間はお祓いや御札とかの手段で幽霊に特定の干渉はできるものの、話す見るといった直接的干渉は自由にできるはずがないですし、そもそもこの人は1週間前、私たち幽霊に為す術もなかったじゃないですか!

「説明すると、俺が幽霊を見ることができるのも、その声を聞くことができるのも、皆俺の作った装置によるものだ。」
「そう・・・ち?なんですかそれは?」
「俺は技術家であり芸術家でもある。1週間の潜伏期間のうち、はじめに気配を出す装置を作り、続けて幽霊に直接、物理的な干渉ができる装置を作った。それと、気配を消すネックレスも作ったぞ。今ここにかけているのがそれだ。」
「そんな技術力をあなたがもっていたとは・・・知りませんでした。」
「ちなみにその人形は俺の芸術の力で、今日夜通しで作った。お前らの作戦会議を盗み聞きした上でな。」
 聞かれてた。私の荒ぶる作戦講座を聞かれてた。
「てっきりあの天使が俺の技術力や気配の装置について仲間に告げ口していたと思っていたが・・・なんの対策もなくて驚いたよ。」
「うう・・・テルジェさんめえ・・・」
 あの人は頼りになるけど、しばしばドジっ子に変貌するんですよねえ・・・それでいてイタズラ好きですし。

 これで、三つ子さんの、そして私の疑問は解決しました。
 彼は幽霊に干渉できる。つまり、私たち幽霊と取っ組み合いの喧嘩をすることもできる。そんな一人の人間の男に対し、私たちは子供幽霊3人に、女幽霊1人。
 私は戦闘派ではないですし、三つ子のポルターガイストも、身体自体が見えているのなら無力。ここで、私たちが彼に攻撃を仕掛け、倒すのは無謀な選択肢と言えます。しかし、ここで引き下がってはいけないのです。

「にしても、何でお前らは俺を追い出したがるんだ?理解できん。」
「何故追いだそうとするかですって?決まってるじゃないですか・・・あなた達人間は、私たちの、大事な、この屋敷を、壊そうとするからです!」
 

  
『この屋敷を、壊そうとするからです!』
 彼女は確かにそういった。それに対し、俺は理解ができなかった。
 壊す?屋敷を?もちろん俺はそんなことをしようと思わないし、今後しようと思うこともない。
「なあおい・・・なにを言っているんだ?俺がいつこの屋敷を壊そうと・・・」
「あなたみたいに、こんな屋敷を買えるのはお金持ちだけです。お金持ちはすぐ、自らの所有物を自分たちの使いやすいように改造します。家だって同じ。あなた達人間が評価したのはこの屋敷のロケーションと外観だけで、内装はただ使いやすいように、跡形もなく改造する。私たちはそんな人間から、この屋敷を守っているんです!私達の大切なこの屋敷を!!!」

 ・・・んん!?
 オカネモチ?俺がお金持ち?いつからそんなことになっているんだ?
 たしかに俺は技術や芸術を売ることにより、それなりの収入がある。しかしそれは、億万長者レベルではないし、この馬鹿でかい屋敷の内装をチェンジできる資産なんてない。
 彼女の、彼女たちの思いはわかるし理解できる。大切なモノを守りたいという気持ちは、当然のものである。しかし俺は、その信念には全く干渉していない。
 彼女たちが俺を退けようとする理由は、屋敷を守るため。俺は、ただここに住むためにやってきた。お互い、何一つ悪影響は及ぼさないはずである。

 答えはもうわかっている。すでに。彼女たちは勘違いをしている。俺を『屋敷を傷つけようとする愚かな人間』だと、勘違いしている。
 その勘違いを晴らせば、もうこんな旗取りゲームなんざやる必要はないと、俺は悟った。
「いいかよく聞け!」
「「ひいっ」」
 勢い良く切り出した。そのためか、相手側が少し怯んだ。
「俺がこの屋敷に来た目的は、静かな場所で仕事をするためだ!そして、俺は金持ちでもなんでもねえ!」
「・・・へ?で・・・でも、じゃあ、なんでこんな屋敷を買えたんですか・・・?相当な値段だったはずなのに・・・」
「・・・知らなかったのか、この屋敷はかなりの破格で売られてた。」
「っ!?」
 彼女から驚きが見て取れた。まさか、自分たちの屋敷がかなりのお得価格で売られてたなんて、思いもしないだろう。
「お前ら、散々入居者を追い出してきたんだろう。そのせいでここはどんどん『イワクツキの物件』になってな。ありえない価格で売られてたところを俺が目をつけたわけだ。俺は金持ちじゃない。」
「え・・・そうなん・・・ですか・・・」
「もう一度言うが、俺はここに住むために来たのであって、屋敷を傷つけようなんて考えはないし、お前らに危害を加える気もない。だから、俺をここに住まわしてくれまいか。」

 最後のほう、どことなく告白みたいな感じになってしまったが、これで誤解は解いた。もう彼女らが俺を的扱いすることもなくなるだろう・・・と思っていたのだが、まだ説得しなければいけないのがいたようだ。

「こらああ!なに勝手にロルちゃんを口説いてんだ侵入者ああああ!!!」
 例の、アホ天使である。

「なにが『住まわしてくれまいか』だ!ダメに決まってるだろうが!」
 天使の力いっぱいの抗議。
「何で駄目なんだ?お互いデメリットはないだろう?」
 それに対向する俺。
「デメリットなら山ほどあるだろうっ!」
「ほう、じゃあ言ってみろ。納得のいく理由をつけてな。」
「ぐぬぬぬぬ・・・・・・」
 どうやら勢いで言ったらしい。そりゃそうだ、俺自身デメリットはもう見当たらない。それならば、何故この天使は未だに拒むのか。
「・・・・・・そ・・・そもそもだっ、フラッグバトルで所有権を決めようと言い出したのはお前のほうだろうがっ!」
「そうだな。だがそれはお前らが俺を追いだそうとするからで、その問題が解決すればこんなゲームを続行する意味は無い。」
「ふん!その問題は解決しない、私たちがお前に屋敷を譲るなんてことはない!」
「だからなー、何でお前らは俺を拒むんだと聞いているんだ。俺には理由がわからないし、そもそもこの屋敷は俺の買ったものなんだから、お前らに拒まれる筋合いはない。」
「俺の買ったものだあ?それは人間が、勝手に売りに出していたものだろお?それよりもずっと前からあたしたちはここに住んでいた!ここは私たちのものだ!」
 そう言って、天使は投げナイフをどこからともなく取り出した。フラッグバトルから一転、生死をかけた戦いになる予感がした。
 


   この小説はフィクションです。
    ようやく終わりが見えて来ました。次回、(導入編の)最終回。
第8話に続く

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