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山中無軌条屋敷
Outrageous mansion in the mountains

  
 第5話 開かない玄関 

 



「おっといけない。もう開戦30分前か」
 一通りの準備作業を終え、即席の木造プレハブ小屋でくつろいでいると、いつの間にか開戦時刻が目前にまで迫っていた。
 開戦―――そう、激安で買った新居を賭けた、フラッグバトル。これに勝たねば俺の夢のマイホームを奴ら幽霊軍団に盗られてしまう。
 いや、厳密に言うとすでに盗られているがな。この戦いは「取り戻す」のが目的だ。

 さて、ルールについては周知の通りだろう。前もって奴らが三つの旗を屋敷内に設置。それを俺が全て回収したら俺の勝ちで、日没までに回収できねば俺の負け、屋敷は永遠に奴らに支配されることとなるだろう。
 ちなみに、旗そのものには何も小細工はしていない。したところですぐに奴らにはばれるだろうし、なによりも初めから答えのわかっている宝探しなんざ楽しくないからな。旗くらい小細工なしで探し出してやろう。

 ―――さあ、やってやろうじゃねえか。ふざけた幽霊どもめ。

 あ、今の台詞悪役っぽい?
 


 屋敷がいつもよりも騒がしい。それもそのはず、人間と私たちで屋敷を賭けたゲームをするなんて、普通じゃありえないことだから。
 罠の設営はすでに終わり、今はそれぞれの持ち場や任務の確認、それから罠の最終調整などなどをやっている。騒がしいのはそれが原因だったりする。

「アンタルさんはここで、対象が来たらホウキとモップで奇襲、ストラさんはバケツで応戦です!お願いします!」
「面倒くさいなー」
「そこを何とかお願いします!」
 作戦についてはロルの本領発揮分野。自分で考えた作戦をてきぱきと全員に説明している。私からしてみれば、よくもまああんなことやこんなことを思いつくなあ。

「「「ねーねー、テルジェ姉ちゃーん」」」
「ん、何?」
 そんな考え事のさなか、不意に声掛け三重奏。屋敷の召使的立ち位置の三つ子、ノルゴ、キルン、サタミだ。
「また人間を襲うんでしょー?」
「何でまた同じことするのー?」
「もう勝ったんじゃないのー?」
 幽霊の仕組みというか、システムについては私もよくわからないんだけど、この三人は精神年齢が子供時代で止まっている。
 ちなみに、死んだ段階で精神年齢が固定されるらしいのだけれども、外見については例外もまた数多くあり、見かけは子供、頭脳は大人・・・な現象も度々起きてしまうらしい。うん、幽霊はよくわからない。
「一回勝ったんだけどね、あいつがどうしても譲れないらしいの。それで、再戦するの」
「なるほどー」
「なんと言うか、非効率的ですねー」
「あきらめは重要なのにねー」
「「「ねー」」」
 喋りだけでは三人の区別はつかない。ノルゴ、キルヌが男の子で、サタミが女の子と、性別こそは違うんだけど、口調だけでなく声質までもがお互い似ていて識別が難しい。
「ほらほら、三人とも。ロルから作戦は聞いたの?」
「あーまだだー」
「作戦の習得を急げー」
「聞かなければ死ぬー」
 死にはしないでしょ。

「・・・さてと、そろそろ私も作戦を聞いておかないと」
「聞いておけって言いながら自分はまだ聞いてないとか・・・ぷっ」
「死ねバカストラ」

 このあと、私たちは全員で最終確認をおこなったあと、各々の持ち場につき、時計の全ての針が一直線に並ぶのを待った。
 さあ、戦争の始まりだ!
  


「・・・どういうことだ?」
 開戦時刻の12時を少し過ぎ、屋敷の玄関前に来た。この位置に来たのは、俺が始めて屋敷へと足を踏み入れたあの日以来。実に1週間ぶりだろうか。
 それはともかく、ゲームはすでに開始されたのだが、いきなり出鼻をくじかれた。
「―――なんで、ドアに鍵がかかってるんだよ・・・・・・」

 そりゃまあ、俺が屋敷に入れなければ旗は回収不可能。奴らの勝ちは必然となるわけだが・・・いくらなんでもこれは納得できない。
「おい、鍵を開けろ。このまま戦わずして逃げる気か?」
 ドンドン、とドアを叩きながら要求するが、返答なし。まったくもってやる気が感じられない。まあ、こちらからふっかけた身勝手な戦いと言われても否定はできないか。
 だが、俺はこの屋敷を買った人間だ。手に入れるチャンスを得る権利くらい、あってもいいはずだ。こうなれば実力行使。
「鍵を開放し、俺を屋敷へ入れなさい。さもなければ窓を割って侵入する。」
 唐突に空き缶が降ってきた。痛い。
 なんだ?何故こんな空き缶がいきなり降ってきた?
「聞いているのか?開けないと扉をぶち破り―――」
 ペットボトル(雨水入り)が降ってきた。効果は抜群だ。
 なるほど、どうやら相手を挑発するような発言をすると、怒って何かを投下するようだ。いくらか試してみよう。
「観念しないと壁を爆破し―――」
 ペットボトル(お得な2リットル)が降ってきた。中にはコーラが入っているのだが、これ、俺が飲んでもいいんだろうか。
 田舎の山の中で飲料の摂取が満足でなかったのでちょうどいい。ありがたくもらっておこう。
「早くしないと屋敷を爆―――」
 一斗缶(黄色塗料込み)が降ってきたってちょっとまてこれもう当たったら洒落にならねえ!
 さっと大きく回避する。直撃は何とか免れたが、缶が落ちた際に中身の塗料が散乱。少し体にかかってしまった。
というか、いままで缶、ペットボトル、一斗缶が降ってきたが、よく考えたらこれ何処から降ってきたんだ?
 玄関前の上には、ちょうど屋敷の2階部分がはみ出している。つまり、俺が今いる場所・・・つまり、玄関扉前の上には天井があり、物など落ちてくるはずがないのである。
 まあ、相手は幽霊、どんなことをしようが今更驚かないが・・・なにか引っかかるな。
 とりあえず、これ以上やると命に関わりそうなので、次でやめておこう。そう思って、俺は力いっぱい叫んだ。

「いたずらっ子はうざいっ子!」

 剣が3本降ってきた。命に関わった。
 


 監視室の役割も兼ねている会議室。屋敷の内外に設置されている防犯カメラの映像を見ることができる。
 元々は、ある時ここに住み着こうとした愚かなる人間が設置したものだったが、なにせこんな山奥の屋敷ではそんな厳重セキュリティは過剰すぎて、それほど有効利用する機会はなかった。
 しかし、今回そんな屋敷監視システムが大いに役立つ時が来た。これさえあれば奴の行動は丸わかりだ。
「あいつめえ・・・いたずらっ子を馬鹿にしやがってえ・・・・・・」
 ・・・そう、聞きたくないことも、丸わかり。

「なんじゃ、テルジェよ。もう"アノ"技を使いおったのか」
「ええ、屋敷を破壊するとか言いましてね、アイツが。制裁を加えるには十分な理由でしょ?」
「それもそうじゃの。わしらのこの屋敷、少しでも壊されてはたまらんからの」
「そうでしょ?まあ、アイツも本気で言ったわけじゃないだろうけど。手に入れようとしているものを自分から壊すなんて、いくら馬鹿でもするはずがないし」
「同意じゃが、奴がこの屋敷を手に入るなんぞ―――」
「わかってるって。例えこんなゲームでも、私たちが負けるなんて、ありえはしない。でしょ?」

 この時、私たちは絶対に、確定的に負けることはない、と、信じきっていた。
 そりゃあ、ただでさえ相手は幽霊軍団で、その中には天使が一人混じってさえいるというのに、たかが人間が私達に勝てるはずがないと思うのは別になんらおかしいことではなかったのだけど、それは単なる「現状の知識を基に作られたローカルな常識」でしかなかった。

 思えば、私は長老や他の屋敷の人たちに、奴の持つとんでもない技術力のことを話していなかった。
 



   この小説はフィクションです。
    なんか微妙なところでの区切りになってしまいましたが、次回、1話から続いてきた導入編もクライマックスです。

第6話に続く

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