|


















山中無軌条屋敷
Outrageous mansion in the mountains

  
 第3話 嵐の前のいつも通り

 



「・・・まったく、何で俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ。」

 小教室から一階に叩き落されたあと、俺は何度も敵のトラップなどに遭った。
 まず、落ちた部屋は食堂だったのだが、突如そこら中の椅子が飛来。俺にタックル攻撃を仕掛けてきた。恐らく、見えない幽霊が椅子を操ったのだろう。
 椅子に当たりながら逃げるように隣の厨房に駆け込むと、待ってましたと言うように食器棚が倒れ俺を襲った。これもポルターガイストのようなものだろう。
 そして食器棚が倒れてから真を置かず、次から次へと攻撃の連鎖。飛び交う皿やナイフ、フォーク、突如燃え上がるガスコンロ、その炎により焦げ、大量の煙を撒き散らすでかい肉。それらの襲撃に遭いながら慌てて厨房を出ると、とどめの一撃が俺を襲った。
 吹き抜けの上から、大量に投下される鉄パイプ。それにより、俺は意識を失った。

 で、現在屋敷外の庭で意識を取り戻した。
 恐らく、意識がなくなったあと、幽霊共が俺を外に放り出したのだろう。それにしても、あれだけやられてよく生きているな、俺。
 さて、これからどうするか。のこのこ屋敷に戻ったところでまた襲撃に遭うだろうし・・・
「これはちゃんとした"装備"が必要だな。」


「・・・あいつ、やっと目を覚ましたようですね。」
 2階の一番奥、丁度1階玄関の真上あたりの場所にある会議・監視室。そこに私たち、幽霊屋敷の住民が集っていた。
「にしても、今回の侵入者の駆除、ホントめんどかったなー」
 そう言ったのはこの幽霊軍団の攻撃手、アンタル。語尾に「なー」とつけるのが特徴な面倒くさがりや。
「どんなに面倒だからって、やらんわけにはいかんだろ・・・。」
 今の発言者はこの屋敷の監視職、レンマ。見事なほどのクールガイ。几帳面な性格でたまに口うるさいけど。
「しかし、皆さん凄いですね。ここまで作戦通りに動けるなんて。」
 見るからにやさしそうな外見をしたこの子は、作戦手のロル。性格はおとなしめでやさしい感じ。作戦立て以外はドジ丸出しだけどね。
「まあねぇ。僕がめっちゃ役に立ったからな!」
 こんのうざいナルシストが私の秘書的位置のストラ。もうホントナルシルター。凄いうざい。ガキ。
「いや、お主は全然動けてなかっただろう・・・」
「なんだとっ」
 今のナイス突込みがここの長老、ベンクロック。とっても紳士。
「馬鹿ストラ、あなたもう少しそのナルシーさを抑えなさいよ。」
 そして、私がこの幽霊屋敷を束ねる長、テルジェ。私以外のここの住民はみんな幽霊だけど、私は違う。私はこの屋敷で唯一、実体のある存在の・・・天使だったりする。
「うるさい!堕天使に馬鹿とかいわれたくない!」
 そう、私は堕天使。って
「堕天使っていうなあああ!」


 この幽霊屋敷は全部で9人住んでいる。内3人は今回の襲撃の後片付けをやっているので、今会議・監視室にいるのはさっき紹介した6人。5年位前は私がいなく、全員で8人だったけど、5年前にいろいろあって私が屋敷メンバーに加わった。
 
「ああもう!久しぶりに骨のあるやつが来たから大人ぶって丁寧語使ってたのにあんたのせいで綻びちゃったじゃない!台無しだよ!」
「いつもと口調が違うと思ったら、そういうことだったのか・・・」
「強化月間ってやつです。」
「あの・・・月間って言うには短すぎやしませんでしたか?丁寧語だった期間。」
「ロルっちそれは言わないで!」
 私たちは毎日、こんな感じに楽しく過ごしている。そんな私たちにとって、部外者が入ってくるのは耐え難いこと。だから、私たちは今回みたいに侵入者を追い出すのだ。まあ、理由はそれだけじゃないけど、話そうとすると凄い長くなる。
 それと、私は他人の心を読むことができるんだけど、その力を使うと凄い疲れるので、心透視はあんまり使わない。というか心なんて読んでも面白いものじゃないしね。
「ん?気付いたらもうこんな時間なんじゃな。」
「長老は時計の霊なんだから時刻把握くらいちゃんとしなー」
「わしは時計の姿しとるが元は人間じゃぞ・・・」
「・・・なあ、時刻云々の前に、あの侵入者、変な行動しだしたぞ・・・。」
「変な行動?」
監視職のレンマが奇妙なことを言う。それについ反応して言葉を漏らすウザラもといストラ。
「見る限り、小屋を建てている・・・。」
「小屋ぁ?あそこに住むんか?」
「尻尾巻いて逃げ出せばいいものの、まだこの屋敷にこだわるつもりかのう。」
「ま、庭に住むくらいなら別にいいんじゃない?」
「そうじゃ・・・な。テルジェがいうなら大丈夫なんじゃろう。」
 時刻は17時。まもなく日が沈もうとする時間帯に小屋を建て始めた侵入者。恐らく今日一日、夜を越すための寝床にするつもりだろう。
それにしても、小屋を作る材料なんてどっから持ってきたんだ?それに、あいつに小屋を作る技量なんてあるのか?
 いくつかの疑問を抱えながらも、私的にはどうでもよかったのですぐに考えるのをやめた。
 さて、もう晩御飯の時間だ。幽霊も一応飯は食べる。食べなくても生きていける(というかすでに死んでる)らしいけど、兎に角食べたいから食べるらしい。ついでにいうと、私は食べないと死ぬ。
 そしてご飯を食べ、仲間と雑談して、お風呂とかも入って、私たちは寝床についた。「幽霊なのに――」みたいな突っ込みは勘弁。
 ともかく、今日は特に変わったこともなく、普通に幕を閉じた。その次の日も、更にその次の日も。

 そうやって、気付けば1週間が経っていた。


 侵入者が来てから7日目の夜、住民が会議室に集った。
「流石にこれ以上、あの侵入者を庭に置いておくのは我慢の限界なんじゃが、どう思うかね。」
「私は別にいいと思いますけど・・・アンタルさんはどうですか?」
 流石はロル、侵入者に対してもやさしい。
「あたいは早く侵入者を完全に追い出したほうがいいと思うけど、めんどいからどっちでもいいなー」
「アンタルは本当に面倒くさがりやだな・・・」
「うーん。それにしても、1週間も経てばいなくなると思ってたんだけどなあ・・・読み違えたかな?」
「やっぱり堕天使の推測もあてになんねぇーって事か!」
「あんたは黙ってろ!」
 しかしあの侵入者、あの小屋で1週間も何をしているんだろう。新居が見つからないんだろうか?それとも・・・
「反撃の準備・・・とか?」
「ん?なんじゃって?」
「あ、いや、あいつ反撃の準備のために1週間もあんな小屋に留まってんじゃないかナーと思っただけで」
「そりゃないねぇ、人間が幽霊や天使(笑)に勝てるはずないし、そもそも一度負けたのに反撃しようなんてないねぇ」
「(笑)っていうな!でもまあ、反撃なんてするはずないよね」
「そんなに気になるなら、あやつの心を読めばいいんじゃなかろうか?」
「心透視ね。あんまり使いたくないけど・・・やってみる。」

 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・!!
「『あーバナナ食いたい。引越し先はバナナ楽園にしようかな』」
「「「なにそれっ!!!」」」
 はもるツッコミ。そりゃ当然だよね。
「馬鹿天使!なにふざけてるんだよ!!!」
「ふざけてないし馬鹿じゃない!心透視してこうなったんだよ!」
「それ絶対何かの間違い。やりなおさなー」
「いや、短時間に何回も心透視はできないからね、アンタル。」
「無視してでもやり直さなー」
「無視すればできるってもんじゃないから!」
「やり直しても結果は同じだと思うが・・・テルジェ、ふざけるのも大概に――」
「レンマまで酷い!私がこんな時に嘘つく人間だとでも思ってるの!?」
「「「思ってる」」」
 いたずらっ子な性格はこんな時に役に立たない。
 うう、こうなったら・・・・・・あれをやるしかない・・・・・・


 そして夜、他の住民が寝静まった後、テルジェは一人庭へと出た。
 小屋にはまだ明かりが灯っていた。
「見てろ・・・本当に侵入者が『あーバナナ食いたい。引越し先はバナナ楽園にしようかな』という思考をしていたことを証明してやる・・・!」
 



   この小説はフィクションです。
    そういえば、小説ページの背景はバナナ色ですね。

第4話に続く

inserted by FC2 system