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山中無軌条屋敷
Outrageous mansion in the mountains

  
 第4話 嵐来たる開戦

 



 庭の片隅、生い茂る森のすぐ近くに建つひとつの小屋。吹けば飛びそうなほどちんちくりんなその小屋に、私は歩み寄る。
「・・・しかしあの男、1週間もあんな小屋で何やってたんだろう。」
 小屋の大きさは大体畳2枚分だろうか、そんな小さい小屋でできることなんて限られているだろう。一体、あんな小屋で何ができる?
 幸い、小屋には窓がある。そこから中をのぞくなんて容易いだろう。中で何をしているかは、小屋の中にある物から推測できるだろうからさほど問題ではない。

 問題は、変な思考をしていたことをどうやって証明するか。それに限る、と思う。
 小屋の主である侵入者の発した"あーバナナ食いたい。引越し先はバナナ楽園にしようかな"という思考。しかしそれは屋敷のみんなに虚構として扱われてしまった。
 私"テルジェ"は、本当にそんな思考を侵入者がしていたことを証明するために小屋の中の様子を探ろうとしているわけだけど、よく考えたら、中の様子を知っても変な思考をしたと証明することは難しい気がする。どうするか・・・
「まあ、なるようになるよね。きっと。」
 そんなのんきな事を言いながら夜の暗い庭を歩く。私の目は暗い夜でもよく見えるないとスコープのような能力が備わっていて、月明かり以外何もない山の中ですら曇った昼間並みによく見える。
 ただ、心透視と同じくこの能力も使っていると疲れてくる。持ってもせいぜい30分が限度だろう。

 そんな目をたよりに庭を歩いていると、右のほうに光る何かを見つけた。その発光体の場所は侵入者の家具等の荷物(ビニールシート仕立て)のすぐ近くだった。
「なんだろあれ。ちょっと調べてみよう。ついでにあの荷物にいたずらしよう♪
そう、私は好奇心旺盛でいたずらっ子なカワイイ天使。こうやってなにかあるとすぐに興味を―――」
 ―――別にでいたずらっ子な"カワイイ"天使ではないと思うぞ?
 ―――うるさい長老。というかいきなり念波で話かけてこないで!?
 私と長老の二人のみ念波を使って話すことができたりする。いうなれば携帯電話みたいなもの。
 これでいきなり話しかけられると結構びっくりする。
 ―――しかし・・・テルジェが侵入者の小屋へ偵察に行くとは驚きじゃ。
 ―――え、何が驚きなの?
 ―――普段ならこういったことはストラに押し付けるじゃろうに・・・何か特別な事情でもあるのかの?
 ―――ありません!気が向いただけです!
 ―――・・・そうじゃな。深読みはよしておくかの。
 長老がそういった後、念波が切れた。危ない危ない、あと少しで偵察の理由がばれるところだった。ばれても何か特別な問題があるわけではないけど。

 さて、こうしてはいられない。さっさと奴の荷物へのいたずらを済ませよう。
 他のメンバーに私が偵察を行っていることがばれたなら、今度こそ偵察理由を知られてしまう。そうなる前にいたずらを含めた偵察を終わらせないと色々都合が悪いってうわあああああああなんか足に変なのがくっついてるううううう!!!!
「・・・・・・・・・なにこれ・・・トリモチ・・・!?」
 叫びは心の中で、声に出すのは冷静なリアクション。けれどこれはすごくショッキング。トリモチのような高粘着物が地面一面に塗りたくられている。
「うう・・・これは侵入者が荷物のいたずら防止用に仕掛けたのか・・・?だとしたら、小屋周辺にも仕掛けられてそうだ・・・」
 いや、そんな考察の前にまずはこのトリモチから脱出だ、私は天使、飛んで脱出も無理じゃない!羽を広げていちにのそーれアイ・キャン・フライ!!!


「・・・・・・ぜぇ・・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・・・・・」
 脱出にかかった時間は10分。シャトルランを100往復したくらいの疲れが私を襲う。いけない、脱出に体力を使いすぎた。
 それにしてもこのトリモチ、粘着力も凄かったが、なにより気配を感じなかった。天使の能力の中には"周りの状況把握"というのがあり、その能力を使えば目を瞑っても何がどこにあるのかが分かったりする。
 私は天使としての能力はだいぶセーブされてしまっているので、どの方向に何があるか程度しか分からないのだけれど、それにしたってこのトリモチの存在に気づけなかったのは異常だろう。考え事をしていたからかな?それとも、このトリモチが特殊・・・?
「・・・っ!!!」
 突然、"ある可能性"が私の脳をよぎる。まさか、そう思いながら私は急いで小屋に向かった。トリモチに引っかからないように飛んで。
 そして、飛んだ状態のまま飛び蹴りの姿勢になり、私はものすごい勢いで小屋のドアを吹っ飛ばした。そこには・・・

ひとつの小さな装置があるだけで、他には何もなかった。

 やられた、やっぱりこの小屋はダミーか!この装置のようなもので自分自身の気配を作り出すことにより、あたかも小屋の中に(侵入者が)いるような錯覚を生み出していたということか。
 こんな技術力が侵入者側にあるとは思いもしていなかった。思えば、いくらこんなちんちくりん小屋でも数時間で完成なんて普通じゃ不可能。それを成し遂げた時点で奇妙に思うべきだったか。

 それで・・・侵入者はどこだろう。

 ・・・荷物を置いて遠くに引っ越すことはないだろうし、近くにいるはず。

 なんのために?

 ・・・逆襲のためだろうな。

 そんなことがあいつにできるか?

 ・・・できる見込みがなければとっくにあいつはここを発っていると思う。

 じゃあ・・・

「いつ・・・攻めてくる・・・・・・?」

「今だ。」

 気づいたら私は、小刀を向けられていた。
 


 
 俺を酷い目に合わし、新居を横取りした張本人。それを事件から1週間たってようやく仕留められる状況が来た。
「・・・最後に言い残すことは?」
「いきなりその台詞はやめて!?」
「じゃあ、何も言い残すことなく死ね。」
「そんな簡単に死ねいうな!」
 わがままな女だ。いたずらっ子成分も相まって、もはやうざい。
「それにしても、不可解な点が多いです。気配を作る装置とか、変な思考とか。」
「それについては話すと長いが、いいだろう。死ぬ前に真相を知っておくのも―――」
「だから私を殺そうとしないで!?」
「はいはい分かった。とっとと話を始めるぞ。」

 ――まず俺には時間が必要だった。やっとの思いで手に入れた優良物件、それを取り返すにはそれなりの装備が必要だったから。
 もちろん幽霊や天使に勝つための装備は売ってはいない。だから自分で作るしかないのだが、アパートはもう引き払い済みで、装備の製作を行なう場所はここ以外になかった。
 しかし、相手の目の前でそれを製作するのは自殺行為、相手に知られずに製作を進めなければならなかった。

 そこで、小屋を建てた。囮として使うために。

 小屋には"気配を作り出す装置"を置いておき、俺がその中にいるかのような錯覚を生み出した。
 俺自身は"気配を消す薬品"を作り、服用することによって気配を消した。この薬品はトリモチトラップにも使って―――
 
「ちょっと待って。」
「なんだ?」
「何で気配を消す薬を作ったのに、わざわざおとり用の小屋や装置を作ったの?」
「そりゃあ、気配を消したとしても立ち去ったなんて演出は不可だからな。」
「何故?気配をなくせばいなくなったと思い込ませられるんじゃ――」
「あの巨大な荷物をどこへやる?あれがある限り、いなくなったとは到底思わせられないだろう?」
「そっか。」

 ―――それで、俺は装備の製作を山の中の洞穴ですることにした。運よく防音パネルや発電機、照明が荷物の中にあったので、それらとあと工具や材料さえあれば装備を作ることはたやすかった。
 そして1週間がたち、お前がこの小屋が偽物・・・囮であることに気がついた。ここまで気付くのに時間がかかったのは、「1週間くらいなら新居を探しているのだろう」と思い込んで妥協してくれたからだろう。
 俺はその間に装備を全て完成させ、今ここにいるというわけだ。

「・・・なるほどねえ・・・・・・それであなた、なんかバナナ的な思考でもした?」
「バナナ?」
「『あーバナナ食いたい。引越し先はバナナ楽園にしようかな』っていうやつ。分かっているとは思うけど、私は心が読めるの。」
「・・・まあ、したんだろうな。その思考を。」
(っっしゃああああ!!!!私の無実晴れたああああああ!!!)
「・・・・・・なんかうれしそうだが、敵の前だぞ?いいのか?」
「っ!!!」
 忘れてたって顔しているな。こいつ。
「・・・それでどうするの?私を殺します?しても、他のみんなが引き下がるなんて事はないですよ?」
「そんなことは分かっている。俺はお前に開戦予告を伝えに来たのだ。」
「ほお・・・開戦予告ねえ。」
「それと・・・・・・1週間前の仕返しの・・・仕置きもするか。」
「は?」
 夜の山にて、一人の悲鳴が響き渡った。


 
「うう・・・酷い目にあった・・・」
 たかが人間。それにビンタだのでこピンだのされても、パンチキックされても私は多分いたいと感じることはないだろう。けど・・・
「くすぐりは反則だろお・・・」
 もはやセクハラの域に達したその仕置きは、今まで味わったどんな苦痛よりもきつかった。

「それで、開戦予告ってどんな内容だったーのかな、アホテルジェさん?」
「うっさいバカストラ。明日の昼12時に屋敷に侵入するって。」
「えらいアバウトな予告じゃな。それなら置手紙とかでもよかったろうに。」
「口頭で伝えたのは丁度よく私があそこに行ったかららしい。それと、ちょっとしたルールとかも説明された。」
「ルール?なーんだそれ。」
「これ。」
 そういって私は3つのフラッグを取り出した。
「これを屋敷内3箇所に設置して、それをあいつが全て回収したらあいつの勝ち、あいつが戦闘不能になるか、日が沈むまで私らがフラッグを1本でも死守したら私たちの勝ちらしい。」
 たんたんと話されたとおりにルールを説明する。
「ゲーム形式とは、小洒落ておるのう。」
「こうでもしねーと勝てないんだかねえ。」
「本人はできる限り血を見たくないからとか言ってたけど、こればかりはストラのいうとおりかも。」
「兎に角、みんなを起こして作戦会議じゃ。」


 
 その夜は作戦会議に終わり、次の日トラップなどの設置を済ませた。
 そして、開戦予告30分前の午前11時30分になった。
「さあ、来るなら来い、侵入者!」
 


   この小説はフィクションです。
    なんかバトル対決みたいになってしまいましたね。この導入の話が終わるのはいつになるやら。

第5話に続く

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