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山中無軌条屋敷
Outrageous mansion in the mountains


 第9話 屋敷生活、いちにちめ 

 



 例の対決から一夜明け、外に放置していた荷物を屋敷内に搬入しようとすると、天使の「テルジェ」が勢い良く飛びかかってきた。
「待てえ!アンタナニシテル!」
「なんで片言なんだよ・・・」
「そんなのどうだっていいでしょうが!なに勝手に荷物運びこもうとしてるんだっ!」
「何だ、手伝ってくれるのか」
「好意的に解釈すなっ!あたしはお前に屋敷に入るなと言っているんだ!」
「はい?いや、昨日住んでいいって・・・」
「あれは事故だ!その場の雰囲気に押し流されてミステイクしただけだああ!」
 ミステイクの使い方が若干間違っている気がする。
「それにあたしはお前を仲間に入れるとかいったけど、あくまで下っ端として。屋敷に入っていいとは言ってないぞ」
「止めても俺には天使殺しのナイフがあるんだが」
「さーせんした」
 昨日の戦いのために作ったナイフをちらつかせると、天使はすぐに黙った。便利だなこれ。
 とりあえずここ最近、本業がまったくできていない。これ以上仕事をサボっていると本格的にまずいので、早く荷物の搬入を終わらせ、引越しを完了しなければいけない。
 そういえば、3日前に大手家電メーカーから仕事依頼来てたな。納期は1か月後で、内容はモーター音が鳩なモーター・・・あの会社、なにを作る気だ?



「おかえりなさいませ、ゴシュジンサマ」
「また片言か・・・」
 全財産(銀行手帳入り)を含んだ金庫を持って屋敷へ入ると、メイドさんのようなセリフが耳に入ってきた。声の主はテルジェの側近、ストラだ。残念ながら男だ。メイドさんどころか冥土さんだ。
「またってなんでーすかまたってー。オレ、片言喋ったのじんせー初ですよー?」
「さっき堕天使が同じような片言をな・・・あんたら似てるな」
「「似てねえ!!!」」
 後ろの人(と言うか天使)と綺麗なハーモニー。ますます似てるな。双子ってわけでもないのに。
「おっだんなぁ、荷物運びですか、重そうですねー」
「そう言うなら手伝ってくれ、意外と量が多いんだ。引越し前にトラックに積むのにも時間がかかった」
「りょーかい、仰せのままに★ご主人様!」
 なんかハイテンションというか、生意気だなーこいつ。
「それで、ナニを運べばいいんですか、ゴシュジンサマ」
「まずその誤解を招く言い方とメイド口調をやめてもらおうか。次に、外の荷物置き場から適当なものを俺の部屋に運んでくれ」
「りょーかい、仰せのままに★ご主人様!」
 だからやめろってその言い方。

「おーいバカテルジェ、そっから適当なもん取ってこーい」
「うっさいアホストラ。自分で取りに来い」
「ちぇー」

 そんな会話を交わし、ストラは荷物置き場へ向かった―――と思いきや、テルジェ何か話したあとすぐに戻ってきた。
「だんなー、ヤツから伝言っす。『お前の部屋、まだ決めてなくね?』」
 あ、忘れてた。



「ということで、第三十五回、幽霊屋敷緊急会議を開幕する」
 屋敷の長老、ベンの号令によって会議が開始された。緊急会議だけで35回もやったのか・・・
「なんで部屋決めごときに緊急会議なんだなー?」
 この、いかにもやる気無さそうなのはアンタルというやつらしい。攻撃手らしいが、昨日の戦いでは直接戦ってはないな。
「わしがやりたいからじゃ」
 よく分からない。
「それで、人間さんはどの部屋がいいんですか?」
「ロルさん、その人間さんという呼び方はやめてくれ」
 先日の作戦を立てたというロルは、今のところこの屋敷で一番大人しくやさしい存在だ。彼女の雰囲気がそうしてしまうのだろうか、何故かこの子だけさん付けで呼んでしまう。
「しかし・・・私はあなたの名前をまだ聞いてないんです」
「ん、そうだったか?」
「そーいや俺も、散々ゴシュジンサマ扱いしてたけど名前知らんなあ」
 確かに、この屋敷のメンバーの名前は昨日のうちにテルジェから聞いていた。だがこの天使、俺の名前は全員に教えていなかったのか。
「テルジェ、後で職員室」
「なんでええ!?」

「まあ、この際全員揃ってるし、俺の自己紹介をしておくか」
「全員って、三つ子がいないんだけど・・・」
「・・・あの子らは山の中でヤギを追い回してる最中だ」
 無口で影が薄くて今まで存在を忘れていたが、こいつはレンマという監視職(ここでの定義で監視や物品の管理棟を行う、事務員的存在らしい)で、口数が少なく、議論への参加も最低限レベルだ。
「なんでまたヤギなんか・・・」
「さあ・・・なんでも、珍しい奴らしい」
 そもそもこの辺ってヤギ住んでるのか?確かに山の羊と書いてヤギだから山にいてもおかしくないが。

「ということで、俺の名は筑山幹人だ。職業は―――」
「ニートか」
「ちゃんと働いとるがな黙れ天使」
「そーだ黙れアホテルジェ」
「で、職業は発明家兼芸術家だ。ここへ来たのは、その仕事を行うにあたって集中するため、静かな場所を求め彷徨った結果ここへついた」
「残念だったなー、ここは確実的に静かなところじゃないなー」
 やる気のないツッコミが突き刺さる。あー、確かにこの屋敷で静寂性は求められないだろうな。
「へー絵かけるんだー、なんか描いてみてよ」
「うるせえ天使、仕事の依頼なら金を積め」
「そーだバカテルジェ、俺に小遣いよこせ」
「なんであんたはいちいち口出ししてくるのよ!」
 ・・・そういやストラ、やけに俺に従順だな。生意気で言うことを聞かないやつだと聞いていたが。
「えーそりゃあ、ここで唯一テルジェに勝てる人だもん。従ったほうがつごーいいし」
「「っ!」」
 え、なんだ?急に空気が凍りついて―――
「そうじゃった・・・こやつはわしらの手に負えない存在・・・」
「逆らえば・・・食べられちゃうんですか・・・?」
「・・・俺は・・・食べてもまずいぞ・・・」
「なーなーなーなーなーなーなー・・・」
 ベン、ロル、レンマ、アンタルの順に、シリアスな真顔でよく分からないことを言い出した。いや、俺でも幽霊は食えねえよ。というかレンマも冗談とか言うのか、それともあれは素か?
「とにかく、部屋の手配じゃあ!お主、どの部屋がほしい!空室は2つあろうぞ!」
 ぶっちゃけた話、ついていけない、このノリに。
「え・・・ああ、なら寝室用と実験室兼アトリエを・・・」
「・・・三つ子を呼んでこいロル・・・早く荷物を運び入れないと屋敷は壊滅だ・・・!」
「ふええっ!?バラバラになっちゃうんですかあ!?わかりましたすぐ呼んできます!」

 思えば、この馬鹿騒ぎが、これからの俺の生活の節操さを物語っていたのかもしれない。
 なんというか、喧騒から逃げて騒がしき屋敷に引っ越してきたってのは何か本末転倒な話だが、毎日が騒がしい非日常な日常も楽しいのではないだろうか。

「運べー」
「急げー」
「キルン、サタミ!それ壊れものだから丁重に扱って!」
「アホテルジェ手伝え!これあと10分で爆発するぞ!」
「しまったあ、もう爆弾が仕掛けられておったのか!それが爆発する前に任を完了せねば、わしらの命はないぞい!」

 ・・・ただ、研究室には防音設備が必要かもしれない。



 時は過ぎて夜、大方荷物は屋敷へ、俺の部屋へ、運び込まれた。ちなみにあの爆弾はただのニトログリセリンだった。
 寝室はともかく研究室兼アトリエは若干の改装工事が必要だろう。防音もそうだが、床の強度が重い機材を搬入する上で心配だった。
 しかし最低限の設備を整えたので、明日から仕事を再会できそうだ。
「ようし、これで鳩モーターが作れる!」
「え、なんですかそれ(笑)」
「お前はいつでも生意気なやつだなあ。ちょっと依頼された品でね、用途は不明だがとにかく作って欲しいそうだ」
「お・・・おれは生クリームじゃないでーすよ!流石に無理ありますねこのすっとぼけネタ」
「それを言うに至った思考回路が見てみたい」
「見せてやりてーですがおれの頭は開きませーん」
 テルジェと俺とでは態度が全く違うな。根本的な態度は変わらないが、俺には不思議なくらいに従順だ。こいつ、あの天使となにがあったんだ・・・?
「ところで旦那、そろそろ大食堂へ向かいましょうぜ」
「大食堂?ああ、俺が初日に落ちた部屋か」
 初めて屋敷に入った時、教室のような部屋のトラップにより俺は落ちて、着弾点が食堂だったというわけだ。
「いつも俺らはこの時間帯に飯を食うことになってるんす」
「幽霊なのに食事をするのか、興味深いぞ」
「はは、別に食べなくとも生きていけるんだけど、人間の頃の癖でつい腹がへるんだ」
 幽霊はついやっちゃった的なノリで食事を摂るのか。

「さーつきましたよ兄貴」
「お前・・・俺への呼び方を統一しないのか?」
「情緒不安定、的な」
「使い方がおかしいぞ日本語の使い方が。言葉の響きだけで言葉選びをするんじゃない」
「まーいいじゃないすか、ところで今日はいつもと食事がちがうらしいっすよ」
「ほお、どんな感じに違うんだ?」
「それは・・・こんな感じだあっ!」
 ストラが勢い良くドアを開け放つと、そこには富豪のパーティを彷彿とさせる、豪華な料理がテーブルの上に並んでいた。
「よお幹人、今日はお前の歓迎会だぞ」
 その料理のすぐ近くに、別にあってもなくてもいいドレス姿のテルジェが配置されていた。
「なくてもいいいうな!配置されていたいうなっ!」
「こんなどうでもいいことに心透視使うんじゃねえ!」
 どうやらこの豪華料理群は俺の歓迎のために作られたもののようだ。
「ということだ幹人、今日は盛大なパーティといこうじゃないか」
 待ちきれないと言わんばかりに天使が言う。なんというか・・・
「これ、お前がやりたいだけじゃねえのか?」
「失礼な!天使たる私が私利私欲のためにパーティを開くわけがないだろう!」
 これは間違いなく嘘をついている目だ。
「百歩譲ってそうだとしても、この歓迎会の言い出しっぺは私じゃない、ロルと三つ子がやろうと言い出したのだ。準備も彼女たちだし」
「それにしてはあの子たち、怯えた表情でこっちを見ているが」
「兄貴が早くしないとお前らを食うぞって言ったからじゃないですかねー」
「俺・・・そんなこと行った覚え無いんだが・・・」
 むしろあの会議では俺は自己紹介しかしていない気がする。
 しかし、もしかすると皆、俺に怯えてこの歓迎会を開いたのだろうか?もしそうだとしたら、申し訳ないな。



「聞きたいことがある、お前らは俺を怖がっているのか?」
 テルジェの司会によって歓迎会が始まり、歓迎される対象である俺の言葉みたいなコーナーへ入った。朝礼でいう、校長の言葉みたいなものだろう。そこでまっさきに発した台詞が、これであった。
「まあなー、自分より強い存在がいたら、怖がるのは当然だなー」
「・・・俺もそう思う」
「私としては仲良くなりたいんですが・・・その・・・」
 やはり、突然やってきて『仲間にしてくれ』なんていっても、すぐに信用を得るなんてできるわけがないか。それに加え、対象が『自分の勝てない存在』ならば、怯えてしまうのも当然か。ならば―――
「今回は歓迎会としてこの会を設営してくれたそうだが、個人的には歓迎会ではなく、親睦を深める、そんな会にしたい。俺もお前らも、お互いのことはよく知らない、だから今の時点では溝ができてしまっているんだろう」
「・・・そうじゃな、一応お主は自己紹介をしたし、わしらについてもテルジェから聞いてはいるんじゃろう?ただそれだけでは分からない中身もあろう」
「その通り、だからこそこの会でお互いを知り、本当の仲間となりたい。俺からは以上だ」
 こんな安い言葉の羅列で通用するかは心配だが、俺からできるのはこのくらいだろう。あとは、彼らが俺を許せるかどうかだ。
「そんなわけで、とにかく今日は楽しもう!騒いで笑って、みんなで仲良くなろうよ!」
 俺の考えを読み取ったのか、司会のテルジェがそう呼びかけた。徐々に賛同の声が上がり、歓迎会改め、親睦会は始まった。

「ええと、こんな時に定番なのってなんだっけ?」
「やーいアホテルジェ、こんなことも知らねーのかよ」
「うるさい!えーと、そうだ、乾杯か!ようし皆で一斉に叫ぼう!」

「「「かんぱーい!」」」
 

    この小説はフィクションです。
    "仰せのままに★ご主人様!"は、GoogleIMEのしわざです。本来は単なる「仰せのままに」になる予定でした。予測変換ェ
 
第10話に続く

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