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山中無軌条屋敷
Outrageous mansion in the mountains

  
 第2話 階段モードチェンジ

 



 俺は別に幽霊が怖いとか、そんなことはない。が、幽霊が実在すると思っているのかと聞かれたら、どちらともいえないだろう。
 幽霊は非科学的、よって科学の道を進む者は幽霊を信じない場合が多いかもしれない。が、そもそも幽霊がいないという事自体、科学的には証明されていない。
 いるかいないか、そのどちらかが証明されない限り、俺自身は幽霊の存否については言及しない。そう、証明されないならば。
「なるほど、今俺の常識が塗り替えられようとしているのか」
 そう言い放ち、俺は怪奇現象が起きるらしい屋敷へと足を踏み入れた。



 豪邸らしい、大きな扉の鍵を開けると、目の前に広いエントランスが広がっていた。吹き抜けにより、開放感のある玄関広間は西洋の協会のような印象を受ける。
 一階は小さい部屋が2つにキッチンと食堂がある。小さい部屋といっても流石は腐っても屋敷、普通に8平米はあるようだ。
 そんなことよりも調査だ。そこら中に鉄パイプが散らかっているところを見ると、引越し業者が遭った怪奇現象は「鉄パイプが降ってくる」的なものだろう。
 とすると、パイプの投擲は恐らく2階の廊下、そこから吹き抜けを利用してパイプを落としたと推測される。
 つまり、幽霊がいるとしたら2階・・・いや、これっぽっちの推測だけでは断言することができないのはわかっている。パイプ投擲のあと、1階に降りた可能性もあるのだから。俺が2階にいると断言した理由はもうひとつある。それは・・・・・・・・・
「・・・・・・何故階段がオールフラットかつ赤い何かが流れているんだ・・・・・・っ!」
 滑る!これは確実に滑る!登ろうとしたら滑って落ちることが安易に予想できる!
 さて、どうしたものか。このフラット階段という名の壁を超えなければ、2階に上がることはできない。というか、これもうすでに怪奇現象確定じゃないか。そうでなければ、選択肢が引越し業者の手の込んだ悪戯1択になってしまう。
 とりあえずだ、何事も挑戦することが大事。やってみる以外に道はない!



「・・・・・・ぜぇ・・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・・・・・」
 結論、登れない。
 なんなんだこの屋敷の幽霊は。怖がらせるのではなく、地味な悪戯思考。今、俺の常識がどんどん塗り替えられている。逃げ去っていった歴代の住み人の中には、怖さよりも悪戯にイラついて去っていった人もいるのではないだろうか。
 カチッ ダダダダダン
「・・・・・・・・・」
 ・・・・・・何が起きた。
 歴代にストレスで出て行った人がいるんじゃね。そういう思考をした瞬間、フラットな階段が元に戻った。一応、相手には幽霊屋敷のプライドのようなものがあるらしい。
 それにしても、相手の幽霊がうざい悪戯系じゃなくて本当によかっ―――
 カチッ ダダダダダン
「・・・・・・・・・」
 ―――うざい悪戯好き幽霊は消え失せればいいと思う。
 ヒュッ カラーン
「危なあっ!!」
 突如、上から鉄パイプが飛来。間一髪避けたが、これは少し厄介なことになってきた。
 今起きた出来事から察するに、相手は俺の思考を読み取っているのだろう。
 最初に階段のモードが変わった時は、俺が幽霊屋敷のプライドを損ねるような思考をしたのが原因だろう。その次は、悪戯っ子を馬鹿にするような思考が原因、その次のパイプ投下も同じ理由だろう。
 となると、相手は悪戯好きであり、幽霊のプライドが高い幽霊という事になる。或いは・・・
「複数犯・・・か・・・?」
 考えてみればそうだ。階段をフラットにして上り難くする仕掛けだって、一人の人間では無理で、複数いなければできることではない。それは恐らく人間も幽霊も同じだろう。
 そうすると、やはり相手は複数いると考えるのが妥当だ。そもそも、仕掛けを作っている時点で幽霊かどうかも怪しいが。
 思考を読み取れて、さらに複数犯。全員が思考を読めるわけではないと思うが、これは本当に厄介なことになってきた。和解できればいいのだが、もしそれができなければ対立することになる。そうなったら必然とこっちが不利になる。これはうまく和解するしか―――
「和解なんてするものか!さっさと出て行け!」
「誰だ!」
 声がする方向に振り向く。しかし、動く何かこそは見えたものの、それが一体何なのかはわからなかった。ただ、声は女性のものだということはわかった。女性というにはやや幼い気がしたが。
 さて、長い時間考え込んでしまったが、そろそろ階段のぼりを再開しよう。


 
「・・・・・・ぜぇ・・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・・・・・」
 30分間の奮闘の末、見事ケチャップまみれのフラット階段を登頂したのだが、代償として全身がケチャップだらけになってしまった。事が片付いたらすぐシャワー浴びよう。
 そんなことより、問題は相手を見つけることだ。それが幽霊だとして、壁を通り抜けたりはするのだろうか?物体には触れるのだろうか?考え出したらきりがない。
 とりあえず、ちらと見えた物陰が入った部屋から調査してみよう。たしか、階段脇の引き戸の部屋だった気がする。
 それにしても、この屋敷はほとんどが洋風なのに、何故かこの引き戸の部屋だけ和風。一体この部屋は何の部屋なんだろう。
 戸は古く、開けづらかった。戸を開けると、目の前には小さい教室が広がっていた。それはまるで、昭和初期の教室のようだった。
 ―――いや、これは確実に昭和初期、大体70年位前のものだろう。
 やけに状態がいいが、デザイン的にどの年代の産物かは丸わかりだ。それにしても、何故昭和の教室がこの屋敷にあるのだろうか。
 そう思いながらも、大して気にはならなかった。幽霊(のようなもの)がいる時点で、この屋敷がおかしなものだということはすでにわかっている。そう考えながら、俺は教室内の探索を始めた。
 考え事をしながらだったせいだろうか。注意力が不足していた俺は、足元のトラップに気付かなかった。
「うわっ!」
 忍者屋敷のどんでん返しを床に埋め込んだ落とし穴。それによって俺は1階に落とされ、地面に叩きつけられた。正確には、椅子の上に落ち、それを粉砕した。
 大怪我こそしなかったが、落ちてダメージを受けたことがさらに俺を不利な状況に叩き落したのは言うまでもない。


 
 ――2階、小教室
「・・・・・・やったか。」
「残念ですが、大きな怪我はしていないようですよ。」
「そうか。まったく、噂や仕掛けにビビッて尻尾を巻いて逃げていればよかったものの・・・」
「今回の『侵入者』は少し骨がありそうです。まあ、たいしたことはないとは思いますが。」
「どんな奴であろうと、ここに住むのだけは阻止しなければならん」
「人が住んでいると活動しにくくなりますもんね。」
「それもあるが、この屋敷はわしらのものだ。人間の手に渡っていいものではない。」
「そうですね。ここは幽霊のものですからね。」
「幽霊ならば誰でもいいというわけでもないがな。それと、お前は幽霊ではないだろう。」
「何いってるんですか。実態はどうであれ、立派な幽霊の仲間ですよ。

 さて、そろそろ大襲撃を始めますよ。」

 
   この小説はフィクションです。
    次回からは台詞が増えると思います。そして執筆しやすくなります。

第3話に続く

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