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幻想世界の螺旋伝記
Spiral biography of a fantasy world 

  
第1話 拒みの町と失敗の森



 妖精という幻想の存在があるこの世界でも、オカルトに対する不信感や反抗はある。
 妖精や魔法などを嫌う「反幻想主義」は世界各地で見られる。ひとつの町に数人いる程度だったり、町そのものが反幻想主義だったりと規模は様々であるが、その中でも一番反幻想主義が強く現れているのが、フォーレッジという町である。


「そっちへ逃げたぞ!」
「一匹たりとも逃すな。全部とっ捕まえろ!」
 フォーレッジの中心部。そこでは暴動と呼ばれる魔法の駆除が行なわれていた。早い話、魔法主義の人間や妖精を追い出す行為である。
 フォーレッジの住民の大半が反幻想主義であり、それらの人々は当然、妖精や魔法を嫌う。
 町には幻想を全否定する張り紙や看板が多く設置され、町に住む少数の幻想派(妖精や魔法を使う人などの総称)には陰湿な嫌がらせを行なったりと、とにかく魔法の類を嫌う科学の町なのだが、妖精に対する虐待などが妨げとなり、幻想派を強制的に排除したりすることはできなかった。
 しかし、最近になって町の住民のストレスや不満がたまり、妖精保護法の取締りが追いついていない状態にあることに気付いたこともあり、幻想派に対する嫌がらせはエスカレート。そして今、ついに暴動を起こすまでに発展してしまったのである。
「・・・見てろよ幻想派ども・・・全員地獄の拷問に処してやる・・・!」



「・・・撒いたかしら」
 町の西にある森、そこの奥部に私は来ていた。拒みの町の暴君達から逃げるために。
「うぅ・・・皆無事かな・・・心配だ・・・」
 反幻想派の暴動の破壊活動や暴行のエリアは幻想派の居住区にとどまらず、南の草原地帯や北の山にまで広がっていた。そこに住む妖精や、そこへ逃げた幻想派を捕らえるため。
 私ソタは見つからないために、未だ反幻想の手があまり伸びていない森に逃げ込んだ。その森は昼間でも迷路のようで薄暗く、ひとたび足を踏み入れるとすぐ迷ってしまう。夜ならなおさら。
 私は魔法を使って周りを地図のように把握できるので迷うことはないと思うけど、そんな迷いやすい森に逃げ込む幻想派や、それを探そうとする反幻想はいなかった。
 なんとか逃げ延びれたけど、仲間を救えなかった後悔でいっぱいだった。私はもう少し、なにかできなかったんだろうか。
「・・・そんなこと、今更思っても無駄か・・・・・・」
 迷路のような森だって、時間が経てば敵が来るだろう。自分たちの科学力を使って、強引に。
 そんな敵から更に逃げるべく、私は森の奥へ、奥へと進んでいった。
 さて、これからどうしよう。
 フォーレッジに戻ることは当然無理だし、この森で野宿というのも危険。いつ反幻想がくるかわからないし、森にどんな生物がいるのかもわからない。だからといって今から他の町に行くなんて事は時間的にも体力的にも無理だろう。距離がありすぎる。
 私は答えが出ないまま、ただ森を進んでいた。しばらくして、急に目の前に何かがたちはだかった。
「あれ・・・なんだろうこれ・・・」
 暗くて最初はよく見えなかったが、徐々にそれが巨木であることを理解した。かなり大きく、直径20mはありそうだった。
 そんな巨木を見て、私は思いついた。この木だったら、敵から隠れて寝ることができるかもしれない、と。
 私は早速、巨木に隠れられる場所がないかを探し始めた。根っこの部分から順に。
 隠れ家を見つけるのは思いのほか早く、探索開始から数分で見つけることができた。大き目の、木の穴だった。これなら見つかることはまずないだろう。
 そう思って、私は穴に入った。けれども、先客がいたようで――
「あら、どなたです?」
 ――その妖精は私に声をかけてきた。
「あっすいません。ここってあなたの住み処ですか。」
「そうです。それで、あなたはどういう経緯でここに?」
「あの・・・私、フォーレッジに住んでたんですけど――」
「わかりました。そういうことですね。」
「まだ住んでいた場所しか言っていませんよ!?」
「フォーレッジから来た妖精ってだけで、大体わかりますよ。なにか起きたんです?」
「あ、はい。反幻想が暴動を起こしてしまいまして・・・それで逃げてきました。フォーレッジに住んでいた他の幻想派の人たちも、生き残りがいるかどうか・・・」
「ほう・・・あの町ならいつか暴動を起こしかねないとは思っていましたが、まさか本当に起きるとは・・・怪我、ないですか?」
「いえ大丈夫です。それより・・・町を出てきたと言うか・・・追い出されたと言うか・・・で、どこに行けばわからなくて・・・」
「うぬ・・・とりあえず今日はここに泊まっていって下さい。けれど、暴動が起こったとなればここも明日以降、どうなるかわかりませんが。」
 なんとか今日の寝床は決まって一安心。だけど、明日以降は本当にどうしよう。
「しかし不思議ねえ。この森は失敗した者が面白いくらい集まってくる。」
「え?それってどういう・・・」
「あなたは街に住むということに失敗したでしょ?いままでにこの森には様々な失敗した者が集まってくるのよ。私も長いことここに住んでいるけど、起業に失敗した人とか、恋愛に失敗した人とか、色々な人に接してきたの。」
「そうなんですか・・・その失敗した人というのは、フォーレッジの住民ですか?それともレットセルクですか?」
 この森の東にはフォーレッジがあるけど、反対の西にはレットセルクという町がある。深い森があるせいで行き来が困難で、お互い交流はまったくないけど。
「うーん・・・割合で言うとレットセルクが8割、ほかがフォーレッジね。フォーレッジはほとんど幻想派の失敗者が来るわね。」
「なるほど・・・それにしても、何で失敗者ばっかりが来るんですかね。ここは森の中央辺りで町からの距離もあるし、迷いそうな気もするけど・・・」
「あら、よくここが森の中央だとわかったわね。失敗者が多く来る理由は・・・私もよくわかってない。ただ、失敗者以外は面白いくらい来ないのはわかってるわ。」
「森に、失敗者以外は道に迷う魔法でもかかっているんですかね?」
「ふふっ、私もそんな感じがします。」
 お互い、名前すら聞いていないのに、不思議と会話が膨らんだ。そうして夜は更け、私たちは寝床についた。
 明日起きたら名前を聞こう。そして、これからどうするかも、起きたら考えよう。
 
 
   この小説はフィクションです。
   口調の書き分けできてなくて申し訳ないです。口調なんてリアルじゃ人によって差はあまりないしいいですよね

(第2話に続く)

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