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幻想世界の螺旋伝記
Spiral biography of a fantasy world 

  
第0話 プロローグ



 日本のある世界とは遠く離れた異次元の幻想世界。そこには妖精という、幻想の存在がある。
 外見は、小人に羽が生えたオーソドックスなものだ。その妖精たちには、これといった使命があるわけでもなく、人間と同じ動物の一種として、自由気ままに生活している。
 寿命は人の2倍の160年で、人間と同じく食事もとる。そして、魔法などといった非科学的なものも使える。そして、人間はその魔法に目をつけ、古来から研究を繰り返してきた。
 魔法研究は、同意を得て妖精たちに協力してもらう研究者もいれば、強制的に実験台として妖精を利用する非人道的な研究者もいる。それどころか、妖精を捕獲、戦士や奴隷として非道な扱い方をする者までいる。          
 妖精に対する虐待や虐殺などは法で禁じられているが、それでも取り締まれているのはごく僅かという現実。故に妖精の中には、反人間を掲げるものや、人間を無差別に襲う過激派も存在してしまう。
 そんな妖精たちには聖地というものがある。名をセーレル。多くの妖精がそこで生まれ育ち、10歳になったものから聖地を出て、世界の各地へと散っていく。中には、生まれ育っていく妖精の子供を教育するためにセーレルに残る者も少数いる。
 各地へ旅立った妖精は、森で木の実を食べ暮らす者もいれば、妖精同士で村や町を形成したり、人間の元で働きながら暮らす者もいる。
  妖精と人間の関係は、前途した問題などがあるものの基本的に良好で、各地で小さな戦争や暴動などはしばしば起こるものの、最近ではそこまで規模の大きい戦争などは起こっていない。

 しかし、出来事というのは前触れもなく起きるもの、大事件が絶対に起きないとも言い切れないのである。



 妖精の聖地、セーレル。4000万人の妖精と2億人の妖精の子供が暮らしている。
 セーレルは11のエリアに分かれていて、内10エリアは更に2000のブロックに分かれていて、子供の育成エリアになっている。
 残りの1エリアは管理所の集まりになっていて、セーレルをはじめ、全世界の主要な妖精村の統治も行っていて、城や国会議事堂のような役割をする場所である。
 そして、その管理エリアの中心にはピレアと呼ばれる城のような建物がある。そこには妖精の長も住んでいて、数ある管理所の中で一番規模が大きい。
「・・・・・・・・・」
 そんなピレアに、少し不安げな表情をした女妖精が一人いた。その妖精の名はニレウである。
「ん?ニレウよ、そんな不安そうな顔をして、何かあったのか?」
 そう言ったのは妖精の長、マークテイ。一応は妖精の中で一番地位の高い人なのだが、そんな気配はあまり感じられない。
「いえ・・・昨日、フォーレッジで起こった暴動が気になってしまって・・・」
 ニレウはピレアの召使で、地位が特別高いわけではない。しかし、そんな普通の妖精の名前ですら覚え、更に話しかけたりもする、そんなところがマークテイの地位の高さを感じさせない理由なのかもしれない。
「フォーレッジの暴動か。あそこは妖精が少ないゆえ、状況把握が難しいからの。気になってしまうのも無理はない」
「いや・・・それもあるんですけど・・・私の友人がその町で暮らしているんです」
「ほう・・・あの反妖精思考を持つ町で暮らしている妖精がおるとは・・・」
「それで・・・暴動に巻き込まれていないか心配で・・・」
「あのフォーレッジで暮らすこと自体危険なことじゃからのう・・・して、その妖精の名前は?」
「えっと、ソタって子です」

 その、ニレウが名前を挙げた妖精が、後に世界で大騒ぎを起こすことになるとは、この時はまだ誰も知らなかった。
 

 
   この小説はフィクションです。

(第1話に続く)

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